「スカーレット」34話。15分で2回泣いた、背中の余韻「ちや子さんのお茶漬」食べたい

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)

連続テレビ小説「スカーレット」 
NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)
第6週「自分で決めた道」34回(11月7日・木 放送 演出・鈴木航)
毎度しっとりしたアヴァンとテーマ曲のイントロの食い合わせがいまひとつよろしくない気がするのだが、それが残念なだけで、あとは申し分ない完成度だ。とくに34回はすばらしかった。2回泣いた。

鍋、オタマ、布巾
とりあえず大阪に帰って来た喜美子(戸田恵梨香)は師走でざわつく商店街をぼんやり歩きながら、進退を考えていた。結果、荒木荘のみんなに信楽に帰ると報告。
汽車のなかで荒木荘のことを考えたと言う喜美子。
鍋、オタマ、布巾、水道、カーテン……きれいに整頓された荒木荘のなかが映る。箒は出てこなかったけど家のなかで掃除が行き届いていることがわかる。
玄関の電話のよこには喜美子の手製のペン立てがまだ置いてある。
荒木荘で女中として働いた3年間を、家のなかの様子で表現するのはとても素敵だ。

朝ドラの美術スタッフはいつもとても素敵な小道具の数々を用意している。それをこんなふうにして物語のなかに落とし込んだことが素敵だった。それがやがて、陶芸で生活に関わる器をつくる仕事につながるんだろうと予測するが、そういう先読みなど要らない、この瞬間を楽しむだけでいい。

「暮しの手帖」とか「リンネル」とか昔の「クウネル」のページをめくるような、映画「かもめ食堂」(07年)のヒットから流行った丁寧な暮らしを描いた映画のような、それがこれまでなぜ朝ドラになかったのかと目からうろこの思いがした。「カーネーション」は服づくりに関してそういうところがあったが、「スカーレット」のようにもっともっと生活に関して着目して良いのだと思う。朝、再放送中の「おしん」はさほど生活の美を描いてはいないけれど、おしんが結婚したばかりの頃、時々、コップに花を飾ることがあって、それが良かったし、夕方再放送している「ゲゲゲの女房」でも布美枝が野の花を摘んで飾る姿は麗しい。
いまの生活の貧しさとか物足りなさとかを描くのではなく、だからといって恵まれたもの満ちたりたものを描くのでもなく、毎日の生活のなかにちょっとした素敵なことをみつけて見せてもらうドラマっていいなあと思う。

雄太郎の歌
「家のしごとに終わりはない」と言う大久保さん(三林京子)。名言である。人生、つねに発見、つねに改善である。

「認める認めんで言うたら、あのときや」
「大久保さんがつくったごはんは大久保さんにしかできへんのんちゃうん と言われたときにもう認めてたわ」
と大久保さん。確かに三林さんはあのときそんな表情をしていた。
厳しかった大久保さんがじつは優しいのはもうとっくにわかっていたが、もうひと押し、ここでお言葉があるのは、視聴者には嬉しい。ただここで羽野晶紀の声だけだったことがややもったいなかった。彼女の表情も観たかった。

しんみりしたところに、雄太郎(木本武宏)が弾き語りで、お別れの歌。
あまりの歌の出来に、犬が吠え、あのいつもの猫がぎゃーって声を出す。猫ともお別れかと思うと寂しい。

雄太郎は喜美子に「信楽太郎」という芸名をつけられる。やがて、この名で雄太郎が人気俳優になるだろうか。
戸田恵梨香の「ひらめかへん…ひらめいた」の言い方が良かった。

ちや子さんのお茶漬け
みんな優しく喜美子を見送るが、ちや子(水野美紀
)だけいない。平さんに裏切られ絶望したちや子は新聞社を辞めてしまったらしい。
しばらくして帰ってきたちや子は喜美子の置き手紙を見る。

喜美子の手紙の声が流れるなか、ちや子は喜美子が三年もの間、きれいに整えてきた台所に立ち、黙々とご飯をつくる。喜美子の手紙に入っていた「ちや子さんのお茶漬け」のレシピに沿って自分で作りながら泣く。
実山椒、三つ葉、梅干し、さっぱり系で美味しそう。生活が乱れがちなちや子に合いそうだ。実山椒、文字だけで風味を思い浮かべてうっとりする。初夏に摘んで喜美子が保存食にしてあったのだろうか。たっぷりの三つ葉も気持ちを豊かにさせる。

誰かの「手紙を読む」行為は朝ドラでよくあるが、これを料理しながら見せるのも良かった。
口紅を買ってあげたかったとか、お茶漬けつくってあげたかったとか、喜美子はほんとうにちや子が好きだったのだなあ。大人の尊敬できる女性にはじめて会ってよっぽど嬉しかったのだろう。

お茶漬けをつくりながら泣いているちや子は、喜美子との別れの寂しさのみならず、貧しく自由のない女の子のために、ジャーナリズムを目指しているにもかかわらず何もできなかった自分の無力を感じたようにも思える。でも喜美子のお茶漬けレシピは美味しくて、喜美子が決して無力ではないことを感じるのだろう。
食べ終わったあと、ちや子の背中を映すのも良かった。ここは顔でなくてOK。そのほうがいろんな想像が膨らむ。

強くたくましく生きているようにみえるちや子の誰にも見せていない弱さや哀しみを、喜美子だけが感じていたのは、喜美子が哀しみをたくさん知っているからだろうか。「またおしゃべりしたい」という喜美子の素朴な言葉が泣ける。

本人がストレートに哀しいと辛いとか言うのではなくて、他者を通して、内に抱える感情が見えてくる描き方によって、ドラマに深みが出ている。視聴率が低いからといって後半すこし変えるようなことを決してしないでこのまま進んでほしい。低いっていったって19%あるんだから十分ではないか。

それにしても15分で二回も泣かせるってすごい。
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

登場人物のまとめとあらすじ (週の終わりに更新していきます)

●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 絵がうまく金賞をとるほどの腕前。勉強もできる。とくに数学。学校の先生には進学を進められるが中学卒業後、大阪の荒木荘に就職する。やがて、美術学校に進学を考える。

川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいる。家に泥棒が入り、
喜美子の給料を前借りに行く。

川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。高校生になっても友達がいないが、楽しげな様子を書いた手紙を大量に喜美子に送っている。喜美子とは幼いときキスした仲。

熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。高校で友達は照子だけだったが、ラブレターをもらう。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。

●滋賀で出会った人たち
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を「ゴミ」扱いされる。

草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいた。帰国の際、離れ離れになってしまった妻・里子の行方を探している。喜美子に柔道を教える。大阪に通訳の仕事で来たとき喜美子と再会。大阪には妻が別の男と結婚し店を営んでおり、離婚届を渡す。

工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。

保…中川元喜  常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
博之…請園裕太 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。

●大阪 荒木荘
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対するが、辛抱して彼女を一人前に鍛え上げたすえ、引退し娘の住む地へ引っ越す。女中の月給が安いのでストッキングの繕い物の内職をさせる。

酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。妹を原因不明の病で亡くしている。喜美子に密かに恋されるが、あき子に一目惚れして、交際のすえ、荒木荘を出る。

庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者で不規則な生活をしていて、部屋も散らかっている。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて俳優を目指すが、デビュー作「大阪ここにあり」以降、出演作がない。
静 マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。

平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ 喜美子の働きを気に入って、引き抜こうとする。
不況になって大手新聞社に引き抜かれた。

石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加 
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。

泉田工業の会長・泉田庄一郎…芦屋雁三郎 あき子の父。荒木荘の前を犬のゴンを散歩させていた。
泉田あき子 …佐津川愛美 圭介に一目惚れされて交際をはじめる。

ジョージ富士川…西川貴教 「自由は不自由だ」がキメ台詞の人気芸術家。喜美子が通おうと思っている美術学校の特別講師。
草間里子…行平あい佳 草間と満州からの帰り生き別れ、別の男と大阪で飯屋を営んでいる。妊娠もしている。

あらすじ
第一週 昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。
第四週 昭和30年 喜美子18歳 女中として一人前になり荒木荘を切り盛りする。
第五週 昭和30年秋から暮にかけて。喜美子、初恋と失恋。美術学校に行くことを決める。

脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき

引用元はこちらです。記事に関するご質問は引用元へお問い合わせください。https://news.merumo.ne.jp/article/genre/9166813